AIの適用 – EFPIAのポジションペーパー

先日、アメリカ食品医薬品局(FDA)のAIの信頼性評価のガイダンスのドラフトを読み、FDAが求めるAIの検証は
かなりハードルが高いという印象を持ちました。
それに対して、以下に取り上げる、2024年9月に欧州製薬団体連合会(EFPIA)が出した“GMP製造環境へのAIの
適用-製薬業界のアプローチ”というポジションペーパーは、FDAと少し異なり、AIのリスクは認めつつも、基本的には
既存のGMPフレームワークやガイダンスはすでにAIのリスクを管理し軽減するための手順を提供しているという
見解を示しています。
私見ですが、EFPIAは、既存のGMPフレームワークやガイダンスを使用してAIをQMSのなかに組み込んでいるので、
現在のAIの使用に問題はないということを暗にアピールをしつつ、“今後、規制当局のAI使用に対するガイダンスの
開発を支援していきます。でも、膨大な新しいバリデーション用語を使用するより、既存の用語を使いましょうね。”という
姿勢を示していると感じました。
EFPIAポジションペーパー:position-paper-application-of-ai-in-a-gmp-manufacturing-environment-sept2024.pdf

FDAと、AIを活用したい製薬業界の立ち位置の違いが感じら、興味深いです。


以下は、EFPIAのポジションペーパー“GMP製造環境へのAIの適用-製薬業界のアプローチ”の要約です。
******************************* 要 約 *******************************
製薬業界はGMP製造における新技術やAIの導入を進め、より効率的な研究・開発・製造プロセスを目指している。
AIには機械学習(ML)、自然言語処理、ロボット工学などが含まれ、データ分析や意思決定の補助に寄与している。
AIの導入には新たな潜在的リスクが伴うが、コンピュータ化システムバリデーションを含むGMPの既存の
フレームワーク(EU-GMP Annex 11など)は、リスク管理及びリスク評価のための確立された手順をすでに提供しており、
EU AI法で定義された高リスクなシステムのリスク軽減に役立つはずである。

品質マネジメントシステムに関係するイノベーション
製薬業界は、AIの急速な進化を考慮し、既存のGMPフレームワークとガイダンスを適応させながら、AIの使用に関する
リスクベースのアプローチを確立して品質マネジメントシステム(QMS)に組み込むことで、製造環境でのリスク管理を
強化し、AIの利点を活用して医薬品を供給可能である。

GMP規制製造におけるAIを使用することの考慮
AIを使用する際には、リスクの特定・評価・制御が必要であり、製薬業界は、規制当局のAI使用に対する規制の更新を
支援し、製品品質、データの完全性、患者の安全性の強化をめざす。
製薬業界は、EU-GMP ガイドラインやEU-GMP Annex 11が下記のことを網羅することを提案する。
・AIのGMPフレームワーク下での管理の要否の特定と、管理する際の追加の考慮事項
・QMSとの統合(例:変更管理、データガバナンス、データインテグリティなど)
・ヒューマン・イン・ザ・ループの概念の定義
・既存のコンピュータ化システムのバリデーションフレームワークの用語の使用
・AIの使用条件、データ要件、パフォーマンス検証の定義
・サイバーセキュリティ対策

具体的なAI活用例
品質管理:AIによる画像認識・データ分析で品質管理によりリアルタイムで逸脱を検出
品質保証:逸脱パターンを認識し、根本原因を特定してCAPAを提案
プロセス監視・障害検出:製造装置からのデータのリアルタイム分析により、プロセス監視・障害検出を強化し、異常を
早期発見
柔軟な製造・最適化: 需要予測や在庫の最適化
歩留まり:歩留まりの予測によるオンラインの補正
予知保全: 温度監視、機器性能の異常検出による機器の故障予測によりダウンタイム削減

バリデーションフレームワーク
製薬業界は、既存のバリデーション方法論がAI使用におけるリスク管理やバリデーションに適していると考える。
バリデーションフレームワークにより軽減されるべき潜在的な新規/追加のリスクには例えば、以下のものが含まれる。
・AIの使用条件
・ライフサイクルのさまざまな段階のデータの要件
・AIの自律性やリスク要因の設計
・パフォーマンス検証/テストデータの考慮
・モデル、データの入力とアウトプットの品質、トレーニング/再トレーニングの検証や、設計文書
・AIの定期的な再検証
・人的要因の介入(ヒューマン・イン・ザ・ループ)

AI使用のリスクの特定と軽減のためにリスクアセスメントアプローチの使用
リスク評価には以下の考慮が必要である。
・AIの使用目的、患者の安全・製品の品質・データインテグリティへの影響の評価
・AIの自律性の理解
・人間の介入(ヒューマン・イン・ザ・ループ)の有無の評価
リスクに応じて必要なレベルのバリデーションを実施する必要がある。
EFPIAとメンバ企業は、確立されているコンピュータ化システムのバリデーションフレームワークから、既存の用語を
使用することを提案する。

GMP遵守と査察の準備
製薬企業は、規制当局に対して、AIが使用に適していること、リスクを理解し適切に管理していることを示せなくては
ならない。
EFPIAのメンバ企業は査察の準備の一環としてとして以下の考慮を提案している。
1.AI/MLで使用されるデータのインテグリティ
2.ライフサイクル全体のリスク管理と、AI/MLのリスクが使用目的で決定されていること
3.コンピュータ化システムバリデーションのフレームワークに従ったAI/MLのバリデーションの実施
4.AI/MLの変更管理
5.AI/MLのサプライヤの管理
6.サイバーセキュリティ
7.ユーザのトレーニング
8. AI/MLの実装と使用に関する経営陣の監督

今後の方向性
GMP製造におけるAI活用にはリスクがあるが、既存のフレームワークと製薬企業で確立された品質マネジメント
システム(QMS)は、高リスクのシステムのリスク軽減に役立つ。製薬業界は、規制当局との連携を強化し、リスクに
配慮しながらGMP環境でのAI活用を推進していく方針である。

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