デジタル技術の発展により、データの収集や活用が容易になり、データ駆動型の経営や業務実施が進んでいます。
それに伴い、データの重要性がますます高まり、規制当局がデータ・インテグリティ(データが完全で一貫性があり、正確であること)の
視点で査察を行う傾向が高まっています。
そこで、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、つい最近、中国の製薬会社のデータ・インテグリティの欠落を指摘して発行した
ウォーニングレターを見てみようと思います。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/yangzhou-sion-commodity-co-ltd-699183-03122025
************************ Warning Letter 320-25-53 概要 ************************
2024年9月23日~9月27日のFDAによる中国の医薬品製造所の査察において、医薬品製造に関するCGMP違反がみつかり、
2025年1月31日に輸入警告措置66-40がとられ、2025年3月12日付でウォーニングレターが発行されました。
●指摘1
貴社は、同一性と、純度・濃度・品質に関して文書化された全ての適切な規格への適合性について、各成分のサンプルを試験することを
怠った。 また貴社は、適切な間隔で、貴社の医薬品の成分の供給者の分析試験の信頼性を検証し確立することを怠った。(21 CFR 211.84(d)(1), 211.84(d)(2))
<指摘1詳細>
貴社は、XXを含むOTC医薬品を製造している。貴社は、貴社のOTC医薬品の製造に使用される入荷した成分について、同一性、純度、
濃度、品質を判断するため試験することを怠り、原材料の供給者に関するベンダ適格性評価プログラムを制定することを怠った。
●指摘2
貴社の品質管理部門は、貴社で製造された医薬品がCGMPに準拠し、同一性・濃度・品質・純度に関して制定された規格を満たすことを
保証するための責任を果たすことを怠った。 (21 CFR 211.22)
<指摘2詳細>
貴社の品質部門は、貴社の医薬品の製造に関し、適切な監督をすることを怠った。例えば、貴社の品質部門は以下のことを怠った:
・医薬品XX内の有効成分の濃度に関する分析試験の実施(21 CFR 211.165(b))
・貴社の医薬品XXに関して貴社が主張するXXの使用期限を裏付ける適切な安定性プログラム(有効期限内の製品の効能の評価を
含む) (21 CFR 211.166)
・職員が医薬品XXの製造と分析に関し、適切な訓練と経験を持っていることを保証すること(21 CFR 211.25(a))
●指摘3
貴社は、制定された規格と標準に従っていることを保証するために必要な全ての試験から得られた完全なデータを含む試験室の記録を
保証することを怠った。 (21 CFR 211.194(a))
<指摘3詳細>
貴社の試験室の記録は、実施された分析を裏付ける完全で原本性のあるデータに欠けていた。例えば:
・貴社の試験室の記録には、データの欠落があった。さらに、試験記録の原本バージョンと書き直されたバージョン及びOTC医薬品の
製造に使用された有効成分と非有効成分に関する分析証明書には、不一致があった。
・貴社はアメリカ市場向けのOTC医薬品を製造するために使用された成分の試験を裏付けるデータの原本を保管していなかった。
・最終製品と原材料の微生物の分析を文書化した紙の記録を修正するために、修正液が使用されているのがみつかった。これらの
文書作成の慣行は、貴社の全てのデータの完全性・信憑性・信頼性と、貴社の医薬品の品質に懸念を引き起こす。
●データ・インテグリティの改善
貴社の品質システムは、貴社が製造した医薬品の安全性、有効性、品質を裏付けるためのデータの正確性と完全性を適切に保証して
いない。CGMPに従ったデータ・インテグリティの手順を制定して遵守するガイダンスについては、以下のFDAのガイダンス文書
Data Integrity and Compliance With Drug CGMPを見よ。
https://www.fda.gov/media/119267/download
我々は、貴社がデータ・インテグリティの訓練をするために、独立した第三者のコンサルタントを雇っていることを認識している。しかし
我々は、貴社がFDAの要件を満たすために貴社の業務を監査し、データ・インテグリの改善を助ける独立した第三者の適切なコンサル
タントを雇うことを強く勧める。
この文書の回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・データの記録、報告の不正確な範囲の包括的な調査
貴社の調査には、以下の事を含む必要がある:
〇詳細な調査のプロトコルと方法;アセスメントの対象となる全ての試験、製造作業、システムのサマリ;貴社が調査の除外を提案
する作業の正当性
〇不正確なデータの性質、範囲、根本原因を特定するための、現在及び以前の従業員のインタビュ
これらのインタビュは、適格な第三者によって実施されることを勧める。
〇貴社の施設におけるデータ・インテグリティの不備の範囲のアセスメント
省略、変更、削除、記録の破壊、非同時の記録の完成、その他の不備を特定せよ。貴社が発見したデータ・インテグリティの欠落
している貴社施設の作業の全ての部分について説明せよ。
〇データ・インテグリティの欠落している試験及び製造の質の包括的で回顧的な評価
我々は、潜在的な違反が特定された分野の専門知識を持った適格な第三者が、全てのデータ・インテグリティの欠如を評価する
ことを勧める。
・見つかった不備が貴社の医薬品の品質に与える潜在的な影響の現在のリスクアセスメント
貴社のアセスメントには、データ・インテグリティの欠如の影響を受けた医薬品のリリースにより引き起こされる患者へのリスクの
分析と、継続的な作業により引き起こされるリスクの分析を含めるべきである。
・全体的なCAPAの計画の記述を含む、貴社の経営戦略
貴社の戦略には、以下の事を含む必要がある:
〇分析データ、製造記録、FDAに提出される全てのデータを含む貴社で生成する全てのデータの信頼性と網羅性をいかに保証
するつもりかについて述べた詳細な是正処置の計画
〇現在のアクションプランの範囲と深さが、調査とリスクアセスメントで見つかったものに見合っているというエビデンスを含む、
貴社のデータ・インテグリティの欠落の根本原因の包括的な記述
データ・インテグリティの欠落の責任を持つ個人が、貴社のCGMP関連データまたは医薬品申請データに影響を与えることが
出来る状態のままかどうかを示せ。
〇顧客への通知、製品回収、追加試験の実施、安定性を保証するために貴社の安定性プログラムへのロットの追加、医薬品申請
アクション、苦情のモニタリングの強化等、患者を守り、医薬品の品質を保証するために貴社がとった、またはとろうとしている
暫定的な手段
〇貴社のデータの完全性を保証するために設計された、手順、プロセス、方法、管理、システム、管理監督、人的資源(例:トレーニング、
職員の改善)に対する改善の取り組みと強化について述べた長期的な手段
〇貴社がデータ・インテグリティの改善のプロトコルを実行した後、CAPAの効果を評価する助けをするために少なくとも2年間、
広範囲な年次照査を実施する適切なコンサルタントを雇うというコミットメント
〇データ・インテグリティの懸念を報告する従業員から匿名の苦情を受け取る権限を持ち、その権限で潜在的な違反を迅速に
調査(必要に応じて外部機関からの専門知識と共に、独立した品質保証の機能による)することを保証するチーフ・インテグリティ・オフィサ
を雇う場合はFDAに通知せよ。
〇すでに進行中または完了した上記活動に関するステイタス・レポート
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、全ての違反を調査し、原因を判断し、
再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
FDAは2025年1月31日に輸入警告措置66-40をとった。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは貴社の製造業者
としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に対する是正処置を完了したことを確認
するために査察を行うかもしれない。
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デジタル化の推進は不可欠ですが、それと同時に、データ・インテグリティを確実にすることも不可欠で、そのためには、職員に対して
データの取り扱い方の教育訓練も忘れてはならないということを感じます。
ちょっと話は変わるのですが、
今後アメリカが国内の製薬産業を保護しようとする姿勢を強めた場合、FDAの査察受け入れや、MRA(相互承認)に影響は出ないのでしょうか?
ちょっと気になるところです。